readingman’s blog

読んだ本や鑑賞した映画の感想を自由気ままに書くブログ

新海誠の本気を感じた すずめの戸締り 

11月11日に公開された、新海誠監督の新作「すずめの戸締り」。

新海誠監督といえば、興行収入250億円を突破した「君の名は」や2019年に公開された「天気の子」が有名ですよね。

今作「すずめの戸締り」は新海監督の集大成・最高傑作と銘打ち様々なプロモーションが行われていますが、私は行く前は「集大成ってなんすか?」とか「何で最高傑作って言い切れるの?」など疑ってばかりいました。

2回鑑賞してきたのでそれらの点を中心に振り返りたいと思いっます。

・過去2作品との比較

ここで本題の「なぜ集大成と言えるのか」を自分なりに解釈したいと思います。

「集大成」としてのすずめの戸締り

「君の名は」では周期性の災害である彗星を題材として、愛する人を守るために奔走する瀧くん、そしてその思いを引き継ぐ三葉の勇姿が描かれていました。

そして、「天気の子」では雨が降り続く異常気象が常態化した世界で、天気を操る能力を得たがその代償として人柱になる運命を得た陽奈を帆高が救い出す物語となっていて、異常気象の生きづらい世界より好きな人のいる世界を望む純粋な恋心を描いていました。

いわば、「すずめの戸締り」はこの2作品を合体したような物語。

まず、すずめは地震という周期性の災害を止めるために後ろ戸を閉めるという役割を付与される。前半はすずめが全国各地を回ってこの役目を遂行する。その後誰かが「要石」として犠牲にならなければいけないという状況に陥り、一度は翔太を要石として封印する。しかし、好きな人のいる世界を望んだすずめは、草太を助けてカオスな世界を受け入れてしまう。
災害を未然に防ぐという「君の名は」的要素と、好きな人と引き換えに異常な世界を受け入れる「天気の子」的要素の融合です。

新海誠本にも書かれていたが、これらの作品はやはり今作を作るための下準備と言えるでしょう。

ただ、そんな中でも異なる部分があります。それは「現実性」、すなわちどれくらい現実的であるかということです。

現実性

もちろん扉からミミズが出てきて地震が起こるというのを現実として理解することは難しいです。それ自体は過去の作品を踏襲したファンタジー性の側面であります。
後ろ戸の意味は以下の記事で言及されています。

news.yahoo.co.jp

つまりこうした神話的要素を取り入れている点でファンタジーだといえます。

過去の作品はこの「現実の世界とファンタジーの融合」に焦点が当たっていたものだと言える。特に「天気の子」は新宿という雑踏が舞台となり、人間臭さや都会の街並みと対比された部分が往々にしてある。

ただ、今作の背後にあるのは間違いなく現実の大災害「東日本大震災」。隕石落下や東京水没など現時点では全く起こるとは考えられない災害とは異なります。
実際に起きた災害をテーマにするのはかなりの覚悟が必要です。震災の被害を受けた方の間でも様々な体験をされている。これを完全に描き切ることは不可能であるからです。新海監督はすずめという一人に着目して遺族の救済を行いました。後述しますが、それがあの最後のセリフだったと思います。
私は正直この震災の取り上げ方に理解はできていません。ただ、そうした議論が起こることを理解しながら、震災を風化させてはいけないという新海監督の本気の思いが勝ったのだと思います。

 

今までの作品の言わば伏線回収、また今まではファンタジーの世界を強調していた映画の世界観から現実の災害を基にして物語を構成している。こうした点から「集大成」と言えるのではないでしょうか。

 

 

他の異なる部分

ロードムービー

今作は、「君の名は」の東京と諏訪湖、「天気の子」の新宿といった限られた地点に留まらず、宮崎から愛媛、神戸、御茶ノ水、そして宮城までを辿るロードムービーです。それにより主人公が関わる登場人物も増え、各々がすずめが前をむくきっかけになった点で重要な役回りをしていたと思います。「地方の暖かさ」をきっと描きたかったのだろう。地方で出てくる人々はすずめに対し暖かさで迎えてくれます(ちかやバーのお母さん)。ただ東京では服がボロボロのすずめに対して陰口を言ったり、翔太の友達は高圧的な態度をとったりと対照的に描かれていました(結果的に優しくはあったのだが...)。
 現実では急速に過疎化が進んでおり、災害がなくても自然消滅する町が今後も増えるでしょう。この映画の一つのテーマとして廃墟と化した街の「鎮魂」がありました。後ろ戸を閉じる際にその土地に住んでいた人々の生活を思い浮かべ、その音、人の心に触れようとする。間違いなく今後この音や心は失われていく。こうした地方の暖かさが消えていくことに対する悲しさか、警鐘か。そのような思いも込められていた気がします。

 

・強いメッセージ性

これまでの新海誠映画は、心の揺れ動きなどラブストーリーの描き方は非常に優れていると思っていました。ただ、イマイチ何を伝えたいのかという部分が分かりにくかった。
今作では最後にすずめに言わせたセリフが全てだったと思います。

私はすずめの明日。もう必要なものは全て手元にあるから心配せず前向きに生きて

ここにはかなり心を打たれました。
正直、最初の場面と最後の場面がなぜ繋がっているのか、ループになっているのかなどどうでも良くなる位何かハッと気付かされるような感覚に陥りました。

 

 

所感

最後にゆるーく感想を述べます。
映像の綺麗さ、駅などの雑踏の書き方は本当に凄いの一言。特に常世の神秘的な世界の星空とか燃え盛る大地と現実との対比が見えやすく、とても引き込まれました。

もちろん細かいところに突っ込みどころはある。実際私も最初この映画を観た時にある種の違和感を覚えました。上でも述べたように、震災という実際に起きる事象に人為的な判断を介在させて良いのか。突き詰めれば、そもそも震災を映画で扱うのはどうかということも考えました。私は震災の遺族ではないためそこには深く言及できません。そのような難しい領域に進出し、厳しい批判を受け入れてまでもこの映画を描きたかったという点で強い覚悟を持っていたというのは強く感じました。そうした思いが最後のセリフに詰められていた。

新海誠監督の作品で1番メッセージが込められていた。そうした点では感動を覚えるだけでなく、より前向きに生きていく活力を貰える映画だと思います。

 

<個人的評価>

総合評価:8点 (10点中)

映像:9点 

ストーリーの面白さ:6点

メッセージ性:9点

満足度:8点